参考になる!なる!モデル成功事例レポート

ケアされる人の気持ちとケアする人の幸せを大切にしたい

福井社会保険病院 皮膚・排泄ケア認定看護師
長谷川 美智子さん 

褥瘡対策について、時には熱く、時にはユーモアを交えて明るく話すのは、福井社会保険病院で院全体の褥瘡管理を担当されている長谷川 美智子さん。
その言葉の中には、褥瘡対策成功のポイントがたくさん隠されていました。セミナー参加をきっかけに、講師や他の参加者と“患者に対する想い”を共有できたことが、 大きな自信に繋がり、それらが形になってきたようです。

チーム医療が必要な褥瘡対策

皮膚・排泄ケア認定看護師の長谷川さんは、褥瘡ハイリスク患者に対するスキンケアやストマケアなどを、病棟の看護スタッフと意見を交わしながらケアする日常業務の他に、 病院全体を対象とし た研修会の企画を褥瘡対策委員会へ提案する日々を送っています。
長谷川さんが日々の褥瘡対策の中で感じているのは、専門スタッフだけでなく、院内のさまざまな職員が連携することの必要性です。「当院では褥瘡ケアは看護師の仕事になっています。 しかし、リハビリ担当者が看護師よりも早く気づくこともあるはずです。また、当院では看護師間でリスクアセスメント表が活用されているものの、他のスタッフは利用しません。褥瘡に 限りませんが、シートをもとに様々なスタッフがカンファレンスすることがすごく大切だと思います。疾患だけではなく、生活支援についてのカンファレンスが必要であると考えています」。 彦根市立病院の看護科長補佐・北川智美さんの「ベッドサイドに立つ人はすべて関係者」という考えに長谷川さんも強く共感します。(注1) 薬剤師や栄養士がオムツを持って患者の状態を 観察する病院の映像をインターネットで見た時、こういう垣根を越えた医療がほんとうのチーム医療だと長谷川さんは感じました。「『任せた』ではなく『どうなの?』って、お互いに声を 掛け合えばいいんです。その時に学んだことが次の患者さんに活かせると思うんです」。長谷川さんにとって、褥瘡対策の理想は関係するすべてのスタッフが持っているさまざまな知識を 共有し、話し合いながら患者さんにとって一番大事なことは何かを考えることです。
長谷川さんが大切にしているのは「患者さんの気持ちとケアするスタッフの気持ちの両方を考える」ことです。患者さんが快適に過ごすために何ができるのか、どうしたら喜んでもらえるの かを考ると同時に、スタッフがそれを継続していくにはどうすればいいのかを考える。長谷川さんは経験からその大切さを実感しています。「例えば90歳代の高齢の患者さんに突然フワフワ な高機能エアマットを使ってもらっても、かえって不安を感じるのではないかと思います。それよりはウレタンの静止型マットレスを使ってポジショニングをした方が、不安のない病床環境 の整備につながると思います」。
長谷川さんのこうした想いと取り組みは、院内の他のスタッフにも徐々に浸透してきています。「枕がほしいねと言ったら、今、取って来ますって。意識が変わってきました」。 ある日、 専任の看護師から「褥瘡対策、毎日なんて大変ですね」と声をかけられました。長谷川さんはうれしくなって「ありがとう」と返しました。院内に褥瘡予防への取り組みを気にかけてくれる 人が増えたことも、これまでの仕事の成果だと感じています。

情報と感動を共有したセミナー

長谷川さんは院外セミナーにも多数参加してきました。「セミナーの成果を一言で表すことはできませんが、いろいろな意味で、この仕事に向き合うきっかけを作ってくれました」。 セミナーには必ず院内のスタッフとともに参加します。「みんなが感動してくれるので、それがまた自分の励みになります。感動を一緒に味わった人たちと仕事ができることに幸せ を感じるし、参加し甲斐を感じます」。セミナーをきっかけに在宅看護へと関心が広がり、現在は、日本在宅褥瘡創傷ケア推進協会のコアスタッフとしても活躍しています。
「セミナーに参加するまでは、褥瘡は発症させてはいけないものという考えが強かったんですが、少し考えが変わりました。スタッフが大勢いる病院とは違い、在宅の場合は、できて も仕方がない環境の場合もあり、症状ともつきあっていかなければなりません。家族がメインスタッフである在宅で、私に何ができるかと考えた結果、まずは情報収集が必要だと思い、 推進協会のコアスタッフになりました」。
昔は、多世代にわたる大家族の中で、小さい頃から介護の場面を生活の一部として見ていました。核家族化が進んだ今では、子供の頃にそれを経験する機会はほとんどありません。 「かつておじいちゃん、おばあちゃんを家で看取っていた頃には自然とわかったことでも、私たちのような看護・看取りを経験していない世代が介護する時代には、情報を得る場が 必要だとつくづく思います」。脳梗塞も、尿失禁もすべてテレビでコマーシャルされている現代。長谷川さんは褥瘡のことも、メディアにもっと訴えてほしいと日々感じています。
この仕事を通じて長谷川さんが感動した言葉に、大浦先生の「介護の日々はある日突然、やってきます。何とかうまくできないものか、家族の悩みは尽きません」があります。 いざ介護する立場になった時に、不安でいっぱいの家族の気持ちを理解した予備知識の提供は、適切な対応をとる手段のきっかけとなります。ここでも、長谷川さんは在宅でケアを される人の気持ちになることが大切だと言います。
「私たちの仕事は、介護する方や、もしくは療養生活を送る方ができることを一緒に考え、見つけていくことだと思います。家族が辛い思いをしていたら、ケアされる方も嬉しく ないはずですよね」。ケアされる人も、家族も幸せを感じることを見つけるためにも、幅広い情報が大切だと言います。

育ててもらった人や地域に恩返ししたい

こうして長谷川さんの取り組みは院内に留まらず、地域との連携に発展していきました。「同室に居宅介護支援センターがあるので、そちらのつながりもあり、院外の研修会に参加 する機会をいただいています」。訪問看護研修会へも参加して、地域とのパイプをより太くしようと活動しています。はじめは、福祉系の職種の方は、皮膚・排泄ケア認定看護師の 存在も知らない状況でした。しかし褥瘡の話になった時に、長谷川さんは情報を提供することが役割と考え、積極的に話に入っていくようにしています。
「ケアをする人の中で顔が知られてきたかなという程度なので、まだ、実践的な動きにはなっていません」。病院と地域との間にはまだ見えない壁があり、満足のいくレベルでの情報 の共有までは進んでいないと言います。 在宅看護や地域連携への熱い想いの理由を長谷川さんに尋ねました。「奥越人だからです(笑)」。長谷川さんには地域に生まれ育った人間 として、患者も含め、地域の人に育ててもらっているという意識があります。そんな地域の人たちに恩返ししたい、貢献したいという思いが長谷川さんの熱さの『根源』です。 「自分も今にここで老後を迎えます。その時に笑顔でいたいんです。今、自分はここで安心して倒れられるか?安心できないなら、自分たちが住みやすい環境の整備に取り組みたいと考えています」。

もっと褥瘡についての情報発信を

「タイカさんの姿勢を見て学ぶところがありました。メーカーだって患者さんのケアについてここまで勉強をしている。私たちももっと頑張らなきゃって・・・」。 その一方で、タイカには同じ目標を持った同士として、さらなる期待もあります。それは、褥瘡や褥瘡対策に関するPRや情報提供をもっともっと行ってほしいということ。 「褥瘡発生リスクアセスメントの手法にOHスケールがあります。 ・自力体位変換能力の評価 ・骨突出の評価 ・関節拘縮の有無 ・浮腫の有無の4項目です。でもこれら全てを 毎日測定するのは、測定する側もされる側も大変です。そこで特に変化のある ・自力体位変換能力の変化の時期を見過ごさないことが大切です。このように在宅ではポイントを 絞った情報提供が必要だと考えています」。
長谷川さんには、「院内外にまたがるチームを作って活動したい」というビジョンがあります。「そのためにまず、地域に対する褥瘡の窓口として、病院にスキンケア外来を 開設したいと考えています。また、在宅介護支援センターや訪問看護、デイサービスなどとも連携し、疾患だけではなく生活全般を見つめる地域連携を作り上げていきたい」。 そう語る長谷川さんはとても熱い目をしていました。