参考になる!なる!モデル成功事例レポート

多職種連携の成功事例
~熱意を持った専門的視点と理念の浸透が褥瘡対策のカギ~

介護付有料老人ホーム フォレスト垂水
理学療法士 上山 喜也さん

フォレスト垂水は「もっと元気になろう」をスローガンに、介護に関わるさまざまな職種のスタッフが連携して、ご入居者がその人らしく生活できる環境作りを目指しています。 ポジショニングやノーリフティングポリシーという考え方を柔軟に取り入れながら、理学療法士として、多数のスタッフと連携をとる上山喜也さんに同ホームの褥瘡対策についてお話をうかがいました。

牽引役の専門的視点が多職種連携を可能にする

(資料1)ご入居者の細かい状態を記録した
「褥瘡管理記録」を作成することで、スタッフ全員が
情報を共有できるようになっている。

上山喜也さんが理学療法士を志したのは、看護関連の仕事をしていた母親や姉妹から介護現場の話を度々聞くうちに興味を持ったのがきっかけです。当初は、臨床の立場から介護に関わることも考えましたが、急性期から終末期まで手厚い介護ができることに魅力を感じて、介護付有料老人ホームのフォレスト垂水で働き始めました。
フォレスト垂水では、理学療法士として日々、ご入居者のリハビリに取り組みながら、同時に移乗時の腰痛予防、福祉用具の活用法を検討し、さらに「介護技術検討委員会」の委員長を務め、施設内の褥瘡対策を牽引する存在としても活躍しています。
さまざまな職種が一丸となって褥瘡対策に取り組むためには、委員会の存在は欠かせません。会議には、理学療法士、看護師、介護職、相談室のスタッフ、ケアマネジャーといった多職種のスタッフが出席するので、問題点に対する対処を、それぞれの専門性を活かしてその場で決めることができます。フォレスト垂水の特徴は、一般的には看護師が中心になって作られることが多いケアの方針を、体の状態がよくわかっている理学療法士や介護・看護メンバーと相談するところからスタートすることです。専門的視点を重視したことが、組織の方向性がまとまり、いろいろな職種の連携がとれるコツのようです。
また、委員会だけでなく施設全体で情報の共有を徹底するよう指導されています。
そのため、普段からフロアでスタッフ同士がすれ違った際に、『○○さんのあのやり方は改善した方がよい』『ここのケアの方法を教えて』などと、違った職種でも気軽に声をかけやすい雰囲気ができています。さらに、それぞれの担当者が、ご入居者一人ひとりの状態を細かく記録につけて、皆が閲覧できる様式を使用し活用しています。(資料1)

セミナーで学んだポジショニングの凄い効果

リフティングとポジショニングの考え方を介護に
活かすために取り入れた福祉用具。
今後の課題は全スタッフ間の意識の共有。

上山さんがタイカを知ったきっかけは、タイカの勉強会に参加したリハビリ室長が、その実践的な内容に感心し、フォレスト垂水内での「褥瘡・ポジショニングセミナー」をタイカに依頼したことでした。 「実は『ポジショニング』という言葉はタイカさんのセミナーで初めて知りました。それまでは体交(体位交換)という概念しか知りませんでしたが、数多くのセミナー開催実績のあるタイカの方から、実例を踏まえた知識と技術を学ぶことで、ポジショニングに筋緊張をやわらげたり、姿勢を整える役割があるということを実感しました。タイカさんの活動は、手技にとらわれることなく、“患者さん視点”の心地よいケアを広める本当に価値あるものだと思います」。
セミナー後まもなく、その成果が現れました。それまでもフォレスト垂水の褥瘡件数は多くはありませんでしたが、病状が急に悪化して寝たきりになった方に褥瘡ができたり、退院して戻った方に大きな褥瘡が見つかったりということが、ある時期に集中して起こりました。そこでOHスケールを用いしっかりアセスメントをし、ポジショニングや移乗の方法をさまざまな角度から検討した結果、褥瘡を改善出来たのです。
「ご入居者を引きずることでつくる褥瘡は恥だ、という考えを徹底しています。褥瘡ができそうな場合には、クッションなどで体圧分散し、除圧を心がけケア方法を見直し、改善に向けてチームで取り組みます。こういった取り組みの結果、新たな褥瘡の発生は殆どありません。また、緊張状態にある方は無理に動かすと膝がますます曲がるので困っていましたが、ポジショニングによってリラックスできたことで足が自然に開き、オムツ交換がとてもしやすくなりました」。多職種で連携して褥瘡の原因を探る取り組みを行ったことで、褥瘡の形を見て、「オムツがよくないのではないか」「上方移動の際に引きずっているのではないか」など、“なぜ褥瘡ができるのか”という問題意識を皆が持つようになったことが大きな前進でした。

そしてノーリフトへ・・・

こうした上山さんを中心とした取り組みが、ノーリフティングポリシーとの出会いにつながります。タイカの勉強会でポジショニングの概念を学んだことで、ノーリフティングポリシーがフォレスト垂水のスタッフに受け入られやすかったと言います。「ちょうどその頃、私たちのスタッフの中に腰痛で休職する者がいたこともあり、腰痛は仕方がないものという考え方から、絶対に起こさせないようにしようという姿勢に変わりました。『手の持ち方』『声のかけ方』『関節の曲げ方』はよりやさしい介助を意識し、スライディングシートやリフトといった福祉用具も取り入れ始めました」。
フォレスト垂水では、移乗・介助、食事、ポジショニングといった介護を個別に考えるのではなく、ご入居者の一連の『生活』ととらえることで、より自然で人間らしいケアが提供できるようになりました。「なによりも入居されている方やご家族、スタッフが楽しそうにしているのがうれしい」と、上山さんは笑顔で話します。

理念の浸透が何よりも大切

福祉用具の使用方法など、実技指導を含む
勉強会は、その様子をビデオに収めて感想を
話し合う場を設けています。

介護・介助に関わる仕事ではどうしても技術に目がいきがちですが、フォレスト垂水は、技術以上に、理念を浸透させることに重点を置いています。スライディングシートやリフトの使い方の研修が好評な一方で、リフトを持ってくるのは面倒だ、シートを使わなくても動かせると考えている人がいることも事実です。
「“介護者の腰痛がご入居者のリスクにつながるため、絶対に持ち上げてはいけない”というノーリフティングポリシーをスタッフ全員に理解してもらえれば、必然的に環境が改善されてくるはずです。今年はシートの活用法や自然な歩行などの全体勉強会を計4回実施する予定です。こうした学びを通して、ノーリフトの必要性を分かってもらおうという狙いです」。
上山さんのような熱意溢れる方に牽引されたら、現場はどんどん改善され、入居者は喜び、スタッフもますますやる気が出ますね。そして、その牽引役は熱意があれば誰でもなれるんだという勇気をもらいました。