参考になる!なる!モデル成功事例レポート

独自開発の褥瘡管理システムの導入で、
医療の質向上と数千万円の経費削減に成功

市立函館病院 皮膚・排泄ケア認定看護師
水木 猛夫さん

市立函館病院は、設立以来、地域がん診療、救急救命センターなどの高度医療を担う函館市の基幹病院です。
734の病床には重篤な患者さんが多く、在院日数が短縮化されている中で、褥瘡予防に積極的な対応をしています。
今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師として多数の職種をまとめ、病院独自で開発した多部門連動型褥瘡管理システムを導入し、褥瘡対策や院内の業務効率化を推進してきた、水木猛夫さんにお話を伺いました。

医療の質を底上げする部門連動型褥瘡管理システム

水木猛夫さんは平成10年から市立函館病院に勤務し、平成18年から皮膚・排泄ケア認定看護師として院内の褥瘡対策にあたっています。当初は院内で認定看護師という名称すら定着しておらず、その役割も理解されていませんでしたが、水木さんは粘り強く各病棟を周り、一つひとつの相談に丁寧に応えていくことで、認定看護師の役割を広めるとともに、院内での信頼関係を構築していきました。認定看護師として活動を始めてから、わずか一年ほどで褥瘡患者さんの状況が良くなってきたのは、多職種間のコミュニケーションが密になった成果だと感じています。
同時に、水木さんは院内の職場環境の改善にも着手しました。活動を開始した6年前の市立函館病院は、職員の時間外業務がとても多い職場でしたが、重複した業務を統合することで、効率化が図れるとともに管理体制を強化できることに気づいたのです。
そこで、環境改善に向けて、褥瘡管理システムが導入されました。このシステムのポイントは“誰もが簡単に使えること”でした。
「当院には、褥瘡対策室の代わりにスキンケア、NST(※1)、摂食嚥下、口腔ケアをたばねた『4部門委員会』があります。(図1)本来、独立性を保っている部署がひとつの委員会を作るのは、画期的ではないでしょうか。多部門連動型褥瘡管理システムは、こうした連携体制の構築にも大いに役立ちました。これまで各部門で別々に行われていたリスク判定は、4部門すべてが共通の判定基準をもとにボタンひとつでできるようになり、確実性、安全性が向上しただけでなく、チーム管理者や病棟看護師の負担も大幅に低減しました」
 こうした工夫と努力により、6年前は年間一万人の入院に対して、200人程いた褥瘡患者が、今では半減しています。(図2)また、紙を使って行っていたリスク評価を廃止したことで、管理栄養士の仕事量が一日あたり6時間短縮され、看護師の仕事量も大幅に減少しました。これにより、各々が本来の仕事に時間を割くことが出来るようになり、人件費に換算すると、年間で数千万円の経費が削減されていることになります。これも導入の大きなメリットです。

理想はすべてのマットレスが動きやすい静止型であること

誰もが簡単に使えることを主眼にしたシステムは、悩むことが多かったマットレス導入シーンでも活躍しています。システム上でOHスケール(※2)を含むリスク項目が入力されると、診断ガイドとしてケアの方法と共に、数種類の具体的なマットレスが提示されます。
「これまで福祉用具の教育は行き届いていなかった面がありますが、このシステムによって、ケアする側がそれぞれ知識を得られるようになったため、私からも指導がしやすくなりました。勉強会などによる横の知識の共有といった効果も出ています。急性期や療養型病院では、患者さんの動きを妨げると褥瘡のリスクは高くなります。QOLに配慮した理想形は、院内のマットレスをすべて動きやすい静止型で対応することです。タイカさんのマットレスは褥瘡だけではなく、“寝具としての寝心地”や“動きやすさ”を追求している姿勢が非常に共感できます」

同じ目線で共有することが大きな成果につながる

水木さんは、院内の医療レベル向上を推進するとともに、認定看護師として、地域連携に向けた活動も行っています。
市立函館病院では、在宅褥瘡にも積極的に取り組んでいます。褥瘡外来(形成外科)も担当する水木さんは、その患者さんが置かれている環境について情報収集し、アセスメントを深め、負担が最小限となるようなケアを見出すことが重要だと言います。在宅で生活する患者さんが朝起きて何をするか、どんな椅子に座っているかなど、一日の生活を知り、環境を知ることで褥瘡の原因はすぐに分かります。使っている椅子を変えるだけで快方に向かう例も珍しくありません。在宅の場合はご本人の生活スタイルを優先させ、負担が最小限で済むケアを行うように心がけています。技術の伝達の前に、いかに同じ目線でケアの仕方を一緒になって考えられるかが大切です」
水木さんは、この姿勢は人に何かを教える立場の人にとって最も大切だと言います。
「リーダーたる人は、相談された問題点に対して、一緒に変化を共有しながら対応していくとともに、自らも学んでいく姿勢が大事です。講習会などで人を集めて、話を聞かせる方法はラクですが、それだけでは力がつきません。現場の課題に対して相手の目線で一緒になって解決していくことには、最初は焦りを感じ、時間ばかりが経っていくように思えますが、これを何年か積み重ねると人の信頼はグンと上がっています。教わる側も、一方的に聴く講演と違い、実体験から一緒に学んだことは忘れません。こうした実体験による学びが教わった人の自信になり、プロ意識へとつながります。褥瘡予防でやっているちょっとした日常的なケアも、その積み重ねが後でどれほど大きな成果になるか計り知れません」

予防重視へ、栄養管理の大切さを訴えたい

水木 猛夫さん
日本看護協会皮膚・排泄ケア(WOC)認定看護師。
平成10年より市立函館病院に勤務。創や褥瘡の
予防を主眼に、各病棟と連携し、褥瘡患者の
ケアにあたっている。

「褥瘡対策はだいぶ進展したと感じていますので、次は褥瘡を作らないための栄養管理を強化していきたいと考えています。システムの導入によってNSTの活動も変化し、褥瘡を含め、様々な診療科の医師または看護師に栄養療法を提案しています。介入した際の提案採用率は経腸、静脈栄養を含め90・3%を実現していますが、まだ十分ではありません。自分自身も専門分野ではないので、今後はNSTメンバーと連携して勉強しながら、最適な栄養療法が合併症を減少させ、治療効果を高めることを医療の現場に伝えていきたいと思っています」
褥瘡対策をきっかけにして数々の改善を続ける姿に、たくさんの可能性を示していただきました。水木さん、夢と勇気をいただき、ありがとうございました。

※1
NST
栄養サポートチーム(NST:Nutrition Support Team)の略称。職種の壁を越え、栄養サポートを実施する多職種のチーム。

※2
OHスケール
患者の状態を自力体位変換、病的骨突出、浮腫、関節拘縮の四項目で評価し、褥瘡発生リスクを評価する方法。